縁の下の力持ち ─ 下糸と刺繍の秘密

刺繍をしていると、ついデザインや糸の色選びに夢中になりがちですが、実は仕上がりの美しさを左右する大切なポイントの一つに「下糸」があります。普段はあまり目立たない存在の下糸ですが、表面の美しいステッチを支える縁の下の力持ち。今回は、そんな下糸の張力調整について、私自身の経験談も交えながらご紹介したいと思います。

ミシン刺繍では、表に出る「上糸」と生地の裏を支える「下糸」が一緒に動いて、立体的でふっくらした刺繍が生まれます。ところが、この下糸の張力が弱いと、せっかく上糸で描いたデザインが生地の裏側にまで引っ張られてしまうことがあるんです。裏地に上糸が見えてしまうと、せっかくの表面の刺繍がゆるんだり、裏側がガタガタになったり…。見えない部分だからこそ、やっぱりきれいに仕上げたいものです。

一番理想的なのは、裏生地の刺繍部分がきれいに下糸で覆われている状態。そうなると、裏側から見てもすっきりしていて、布全体の安定感も増します。この理想の状態に近づけるには、上糸と下糸の「張力調整」が欠かせません。

私が特に意識しているのは、上糸と下糸それぞれの張力のバランス。上糸の張力はミシンのダイヤルで簡単に調整できますが、下糸はボビンケースの小さなネジで微調整をします。最初はこの上糸と下糸の張力調整がなかなか難しくて、刺繍をするたびに上糸が裏に引っ張られてしまったり、逆に下糸が表に出てしまったり…。生地の裏を見ては、「あれ、なんかおかしいな」と試行錯誤の繰り返しでした。

でも、何度も糸を交換していくうちに、だんだんとコツがつかめるようになってきたんです。糸の太さや種類、刺繍する布の厚みなど、少し条件が変わるだけでも張力のバランスが崩れてしまうので、毎回しっかり確認することが大事だと実感しました。最近では、糸を交換する時や糸が切れた時「これくらいの張力が必要だな」と見当がつくようになり、下糸の状態も少しずつ均一に整ってきました。

特に黒や濃い色の上糸を使うと、裏側の縫い目のラインがとてもはっきり見えるので、下糸の仕上がり具合がよくわかります。最初はうまくいかなくて、裏に上糸が飛び出してしまうのを見てはがっかり…。でも、その分、上糸と下糸の張力を調整してうまく仕上がった時の達成感は格別です!

糸を交換するたびに微調整が必要なので、最初は少し面倒に感じるかもしれません。けれど、裏側の縫い目を見ていると、糸や布の組み合わせによって微妙に変わる刺繍の表情が面白くて、今ではちょっとした楽しみになっています。糸の張力調整は、まさに刺繍の「縁の下の仕事」。表のデザインをより引き立てるための大切な作業です。

最近では、裏面の下糸の状態がそろっていると、「今日はバランスがいいな」と気分も上がります。仕上がりの裏側がきれいだと、なんだか自分の手仕事を褒めてもらえた気がして、自然と次の作品づくりも意欲が湧いてくるんですよね。

これからも、日々の刺繍で感じた小さな気づきを大切にしながら、上糸と下糸のベストバランスを探していきたいと思います。刺繍は表のデザインが主役だけれど、裏のきれいさもまた作品の完成度をぐっと高めてくれるもの。そんな裏側の世界に目を向けてみると、刺繍がもっと奥深くて楽しいものに感じられます。

刺繍製品を購入された方や刺繍ミシンに興味のある方は、裏地をそっとのぞいてみてください。きっと、新しい発見があるはずです。

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